ケガニの横歩き


ブンガクの小窓 第八章「散文」

またしても忙しくて少し時間が空きましたが、おなじみの宣伝です。

 

ブンガクの小窓第八章は、ハイロウズと「散文」について書きました。ミュージシャンやライターの方にはちょっと読んでほしい内容になっています。

 

「~かもしれませんね」とか「~してみてはどうでしょうか」のような、ウェブライターがよく使う字数稼ぎの決まり文句、「ライターしぐさ」が僕は嫌いです。

そういう意味のない文章をできるだけ読みたくないし、書きたくない。

あるいは、「会いたくてせつない」とか「君のことが好き」というだけの歌を聞きたくない。

それだったら「月が綺麗ですね」とか「木星と火星の春はどんなだろう」とか「この恋がいつの日か表彰台に上るとき、君がメダルを受け取ってくれないか」と言ってほしいのです。

 

今回はそんなようなことを書いています。編集長に個人的なことをどんどん書いていいと言われたので昔話が多め。楽しんでいただけるとありがたいです。まだまだテーマや感想もお待ちしております。

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四月の魚

毎年エイプリルフールになると何か嘘をついてやろうとたくらむのだけれど、結局気づけば何もできずに終わっている。

 

エイプリルフールに人をだますのは爽快だ。頭脳ゲームでさえあると思う。三島由紀夫も『不道徳教育講座』の中で、嘘をつくのは「頭脳鍛錬法」だと言っていた。

 

だけれど、大人の嘘はもうエイプリルフール向きではない、と思う。大人になればなるほど、ひとは嘘を塗り重ねていって、あたかもそれが自分の一部であるかのようになってしまう。たとえば今日いくつ小さな嘘をついたか、数えられる人はいないかもしれない。それほど日常生活と嘘は同化してしまっていると感じる。反対に言えば、日常生活との関係を考えてしまって爽快な嘘が見つからなくなるのだ。こう言ったら相手が傷つくかな、とか、自分のイメージに合わない、とか、会社に迷惑がかかる、とか。嘘がうまくなりすぎてしまったからだ、と思う。

 

フランス語でエイプリルフールは「四月の魚 poisson d'avril」という。嘘をついたりもするが、相手の知らないうちに背中に魚の絵を貼り付けて、やーいやーい、という遊びをしたりする。今年の4月1日には、ある親子の家に食事に行ったのだけど、その家の子がお母さんの背中に魚の絵を貼り付けて喜んでいた。彼の幼さ、無邪気さに感じ入る以上に、こうして人をだますことの爽快さを味わえない自分を少しだけ恨めしく思った。家に帰るまで、なんとなく彼のことを考えていた。あとどれくらい、彼はこうして爽快に人をだませるのだろう。部屋へ戻って上着を脱いだとき、コートの背中に一匹の「魚」を見つけた。僕は、やられた、と思うと同時に彼の屈託のない笑顔を思い出した。時刻はもうとっくにエイプリルフールを過ぎていて、僕は今年も嘘をつくことができない。

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ボンソワール

僕が住んでいるところは、学生寮のようなもので、トイレやキッチンは共有。シャワーもある部屋とない部屋がある。そのため自然と外に出る機会が出て、同じ階に住む人間は大体おたがいに把握している。

住んでいる人の国籍も様々で、メキシコから来ている人もいればフランス人もいる。フランスにいるだけに、出会う外国人とはたいていフランス語で話すのだが、この寮の住人のうち2割くらいの人は大学で英語しか話さないのだろう、フランス語があまり得意ではないが、それでも挨拶くらいはフランス語だ。ボンジュール(こんにちは)とかボンソワール(こんばんは)とか言い合って過ごしている。

 

そんな中、同じ階にかたくなにフランス語を使わない女性がいる。いつ会ってもハイ、と挨拶。こちらがフランス語なのに、常に英語である。たしかにフランスでフランス語を使うと逆に一般人として見てくれないというか、子供扱いされたりすることもある――日本で外国人が片言の日本語だとちょっと愛嬌があるように見えたりするように――ので、英語で話し続けるのは彼女のプライドからなのかもしれないと思う。実際気の強い人で、友達と騒いでキッチンを占領しているのに「パーティなんてしたこともないわ」と冗談を言ってきたり、ときどき言い争っている声も聞こえる。なんとなく苦手だなぁと思っていた。

 

しかし、一度だけ彼女がボンソワールと言ったことがある。

その日、僕はキッチンで料理をしていて、鍋や材料なんかを手に持って自分の部屋と行き来していた。なんだかんだ言って自炊は好きな物が食べられるので外よりも好きだ。というかパリでは外食は友達と飲むとき、と相場が決まっているので割高なのだ。その日もパスタか何かを作っていた。

突然、彼女が部屋から飛び出してきた。しかもすっぴんにバスタオル一枚の姿。彼女の部屋はトイレの真ん前だから、トイレに行くつもりだったのだろう。こっちはというとネギとニンジンとピーラーを持っているところだった。お互い思いがけない姿に、うわ、という感じ。なんか申し訳ない、いや、別にこっちは悪くない、というか被害者だ、けどやっぱりばつが悪い。僕がとっさに気を取り直してボンソワール、と言う。こんな状況でこんばんはもへったくれもないのだが。すると彼女もボンソワールと返したのだ。さっさと通り過ぎてキッチンへ戻る僕。さっきのはなんやったんやと思いつつも、ボンソワールって言わせたったぜとなぜか勝った気分になったのだった。

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突発性難聴の話

あんまりストレスの無いようにのんびりと暮らしているつもりでも、海外というだけで無意識のうちに我慢したり無理をしたりするようで、突発性難聴のようなものにかかったことが何度かある。

 

あんまり苦労自慢は好きじゃないし、体質みたいなものだと思うのだけれど、自分はホームシックにあまりかからなかった分、体に変調をきたしていたようだ。

かかったのは11月くらいで、授業にも慣れてきたころだ。慣れてきたとは言えど、100パーセント理解できることはまれで、自分のわからないところはiPhoneでしていた録音を聞きなおしてなんとか補完していた。

集中力は体力と比例していて、一日に6時間授業がある日は最後の2時間は理解力も落ちていた気がする。確かに聞こえているし、文字が頭に浮かぶのに意味が入ってこないことがあって、ジワリと変な汗をかいたものだった。たちが悪いのは、その最後の2時間の授業担当が、よく冗談を言う先生だったことだ。冗談が聞き取れない場合は、クラス中笑っているのに僕だけ険しい顔をしていることになる。フランス人の笑いの沸点は総じてかなり低いのだが、それにしても笑顔はコミュニケーションの基本(普段根暗でもこういうことは考えるのだ)。笑いたいのだが笑えず、そういうときに授業中の孤独感はたしかにあった。

 

そんな中、片耳が急に聞こえなくなった。ストレスで難聴になるというという話は知っていたのだけれど、自分がなるとは不思議だった。日々なにかと成長しているつもりだったし、生活もだんだん楽しくなってきたころだったから、耳が聞こえないとなると何故だか理由がさっぱりわからなかった。それは気圧が高いとき、耳抜きをする前みたいな感覚だった。片耳だけが水中にいるようだった。原因がわからないから耳抜きを何度かするものの、さっぱり良くならない。音楽用語でいえば、「ゲインが低い」感じ。だいたい丸一日で治るが、油断をすれば一週間に三日くらい耳があまり聞こえない日が続いた。海外で耳が聞こえないのは致命的と言っていいだろう。聞こえる側の耳を教壇に向けてなんとかなったものの、ふいに物音がする方がわからなかったりもした。

 

とくにオチはないのだけれど、今は元気でなんとかなっているので、こういうものは本当に気持ちの持ちようなのだろうなと思う。でも体は正直なので、頭で大丈夫だと思っていてもだめなときはだめだ。よしもとばななに『体は全部知っている』という短編集があったけれど、ほんとにその通りだと思う。原因不明の不調が続いたときには、しっかり休みましょう。

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ブンガクの小窓 第七章「刹那」

忙しくてなかなか更新できておりませんが、宣伝をば。

 

ウェブマガジン『アンテナ』にて連載中のコラム、「ブンガクの小窓」の第七章がアップロードされました。

 

今回の言葉は「刹那」。

せつな、と聞けばなんとなくせつないような気がするのですが、由来は全くべつ。

 

ちょっと面白い仏教用語なんですね。

知らなかったという人、ぜひ読んでみてください。

感想やリクエストもお待ちしております。

「情報」としてググっても出ない程度には面白く書いているつもりだけど難しいですね。

 

このブログも来週くらいには更新できるかと思います。

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日本の定食屋「Naniwaya」

 お昼ご飯を大事にしたい。

 パリにおいて、夜は外食のハードルが極めて高いので、なんとかお昼で「行きつけ」を作りたい。しかし僕の提示する条件はきびしい。安い、早い、多い、うまい、である。

 

 ちなみに京都には「はやし」という定食屋があって、「ようて」、「すうて」、「おいしい」の一文字ずつをとって「は・や・し」と謳っている。(真偽のほどははさておき)理想的な店だと思うのだが、よく見りゃ「し」は微妙である。本当は「は・や・お」であるべきだし、店長の名前も「速雄」とかだとなおいい。なんだよだいたい、おいしいし、って。その後に何か言うつもりだったのか。

 

 閑話休題。パリの日本食は割とお高めなので、お昼に行くのもなかなか大変なのだが、Naniwayaはその中でもおすすめの一店である。というのも例の「四か条」を、そこそこ満たしてくれるからである。(量が多い分「はやし」より理想的である)

 

 画像はかつ丼。なんと8€である(1000円程度)。この時は大盛りにしたので正確には10.5€。本来はうどん屋なのだが、なんとなくごはんも食べられて値段もこのあたりならかつ丼でございましょう。味付けは甘味が少ないが、ちゃんと出汁の味。ネギも当然九条ネギではなく謎の青ネギだし、海苔もぱさっとしているがそれなりに納得できる。ほかにも刺身定食やカツカレーなど、定食屋に求めるものが結構ある。今のところお昼ご飯の最適解はここ。

 

 ちなみに隣に座った家族が、「稲荷ずし」と「太巻き」の違いをお店の人に聞いていたが、彼は稲荷ずしの「稲荷」部分の説明に相当苦労していた。フランス語で「甘い何かです」と言っていたが、家族はなんじゃそれという顔をしていた。なんじゃそれ。

ピラミッド駅が最寄りで、アジア食品店の「K-MART」の向かい側にある。

このあたりは日本食が多いので、折を見て制覇していく所存。

 

営業時間

11:30-15:00、18:00-22:30 

無休


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