· 

目だけで

 

以前、ちょっとしたご縁があって、筋ジストロフィーの療養センターでの、ボランティアめいた活動に参加したことがあった。ボランティアというよりも、友人の友人がそこにいるので、ついでに他の患者さんたちと一緒に歌いましょうという「お楽しみ会」みたいなものだった。

 

ある人が「詩を書いている」といって僕に見せてくれた一枚の紙が衝撃だった。正確な文言は忘れてしまったが、恋の詩で、あなたを瞳の中で抱きしめた、といった内容だった。他愛のない表現のように聞こえるかもしれないが、ご存知の通り、筋ジストロフィーは体が徐々に動かなくなってしまう病気だ。病状が進行すれば、恋愛をすることはおろか、コミュニケーションだってままならなくなり、やがては肺や心臓を動かすこともできなくなってしまう。そして現在のところ、この病気を完全に治療する手だてはない。だから「瞳の中で抱きしめる」ということが、彼にとってどのような表現だったのかを言外に想像してしまう。何気ない一節だったが、その言葉はずっと頭の片隅に沈殿していた。

 

それから何年かしてつい最近のことだ。何気なくSNSを見ていると、谷川俊太郎の詩の断片が目に留まった。「目だけで」という詩だ。2010年7月に朝日新聞の夕刊に掲載された詩だそうだ。全文引用することは避けるが、谷川さんがあまりにもそのときと同じ感覚を読み込んでいて驚いた。そのままだと少しセンチメンタルな詩だが、僕は勝手に筋ジストロフィーとともに生きていた「詩人」を重ね合わせてしまっていた。

 

目であなたを抱きしめたい

目だけで愛したい

ことばより正確に深く

じっといつまでも見続けて

一緒に心の宇宙を遊泳したい

 

そう思っていることが

見つめるだけで伝わるだろうか

いまハミングしながら

洗濯物を干しているあなたに