今住んでいる下宿にはギリシャダンス講習会みたいなものがあって、何度か参加したことがある。
ダンスといっても、ヒップホップダンスみたいなものではなくて、大勢で輪になって踊る。激しい足の交差をともなうので、ほとんどジョギングみたいなスポーツになって、運動不足の自分にはちょうどよかった。
教える人もギリシャ人らしい陽気な人で、
「左、右右、左、ワンツースリージャンプ」
みたいに、なまりの強いフランス語で教えてくれた。
あるとき、ちょっと年齢の高いおじいさんが参加したときのことだ。
左、右、とステップを教えるのだが、なかなか覚えられないし、足も軽やかに動かない、ということで結構苦戦していた。先生が左じゃなくて、右、右じゃなくて、左、みたいにして彼に訂正するのだが、いっこうにうまくならない。左、右、左、交互に入れ替えて、と先生。そのとき彼がぽつりと、「政治みたいだね」、とジョークを言った。
フランス政府は日本と違って、よく政党が入れ替わるのだが、保守政党の次は自由主義政党、と左右が入れ替わることが多い。老人は左、右、左、とステップを踏みながら、政治権力のむなしさを思っていたのだ。
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