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パリの気球

 年末に近づくにつれてだんだんと忙しくなってきた。年末まで、という締め切りにじわじわと攻めたてられ、これこそ「真綿で首をしめられる」という経験なのだと思い知る。

 寒いパリの街並みをゆく、モコモコに着こんだパリジャン(やパリジェンヌ)を横目で流し見ながら家路をいそぐ。日本との時差もあって、徹夜とは言わないまでも明日の朝には提出したいものがある。僕は手前の仕事から片付けていく性分なので、いつまでたっても長期的な仕事が片付かない。ものの本によれば、そういうときは「長期的な仕事」を「短期的な仕事」に小分けして手前においときなさい、ということらしいが、学問関係の仕事は小分けにできるような代物でもなかったりする。それこそ何日も、椅子に座って腕組みしながらじいっと考え続けて答えを探さなければいけない分野だと思う。

 

 そんなぎすぎすした毎日の中で、ふと目を見上げるとこんな風景に出会った。なんだあれは。気球だろうか。よく見ると「籠」の中に人間が入っているようだ。ネットで調べてみると、「アンドレ・シトロエン公園」の気球らしい。たった12€で乗れますよ、と書いてあった。それが高いのか安いのかわからないが、不思議な体験だろう。平日の昼間に空からパリを眺めるのはどんな気分だろうか。その気球は今でも僕の胸の中にぽっかりと浮かんでいる。