ニュイ・ブランシュ2016(その3)

その2からの続き。

ニュイ・ブランシュは屋内展示もたくさんあって、普段は夜に入れない場所に入れるのも面白い。

さて、写真はパリの土壌を水に溶かした、「PETRICHOR」。このタイトルは、「雨が降ったあとの土のにおい」というロマンチックな意味を持っている。

もともとこの言葉は1964年、オーストラリアで発見された効果へ与えられた名前である。本当は雨のにおいの模倣ではなく、土壌と天候との関係におけるにおいの発生を調べるための研究だったらしい。

奥に見えるのは土壌を調査するためにアーティスト本人がスコップでパリ中を掘り起こしている様子。

これはある聖堂に展示されていた作品。「天より高く」というタイトル。

既製品の服が聖堂の天井を突き抜けんとしている様子は、テロ被害者である一般人の魂のようであり、バベルの塔の現代的なイメージのようでもある、と解説に書いてあった。

芸術については詳しくないけれど、聖堂の中に普通の服がかかっているのは愉快だった。

最後の写真は、パイプオルガンの演奏。今年は作曲家エリック・サティの生誕150周年だったこともあり、いくつかの会場でパイプオルガンのコンサートが開かれていた。

この会場では1893年に書かれた「侮辱Vexation」という曲が演奏された。この曲、知る人ぞ知る有名曲である。一分ほどの曲の840回におよぶ繰り返しで構成されている。演奏し終えるのに非常に長い時間がかかるわけだ。(だから、演奏者への「侮辱」、という意味もあるとされる)。サティは1866年生まれだから、彼が27歳の時に書いたことになる。そのとき彼が何を思っていたのか、と思うほど不穏な曲である。メロディはリフ部分の繰り返しによって構成されている。

パイプオルガンで演奏されることによって、ピアノで演奏されるときに現れる演奏者の表現的側面が薄れ、曲の和声が長音で強調されていた。

(下にYOUTUBEのリンクを貼っておきます。)

 

全体を通してみると、芸術作品が、美術館という枠にとらわれず、日常的なものの中に置かれることに意味があるのだろうと感じた。芸術鑑賞とは、必ずしもお金や時間を消費してやっと成立するものではない、というメッセージになっているわけだ。

これと関連して、今期の授業のテーマのひとつに「芸術機械」というのがあるのだけれど、それはまた今度。